エゴイスト 〜リョーマside〜 何なんだろう、この気持ち… 不二先輩の気持ちは…まだ掴めないけど、何だかとてもスッキリした 何が解決したとか この気持ちは何だろうとか… そういう訳じゃないのに ドンッ…! 不二先輩に「GAME」のスタート合図をされ、そのまま走って去った。 何処へ行くつもりでもなかったけど… 余所見をしてた所為か、誰かと正面からぶつかってしまった。 「ッ…」 「おい、越前。…大丈夫か?」 「あ…部長」 俺がぶつかったのは、紛れも無く手塚部長だった。 …マズイ、廊下を走ってたんだった。 これじゃ「校庭30周!」って言われるかも…。 「…お前は案外落ち着きがないんだな」 「…すいません」 聞こえてきたのは、意外な優しい声。 部長は歯に噛んだ笑顔を向け、尻餅をついた俺を起こしてくれた。 「今は昼休みだろう。こんな所で何をしてるんだ?」 「え…っと……」 そう、適当に走ってたから気付かなかったけど… 此処って生徒会室のある所じゃん。 この厳格な生徒会長が仕事をしてるから、役員以外は近寄ろうとしないって有名な場所。 「…何か、迷子になってたみたいッス」 「……………」 うわ…部長の表情が恐いよ。 そりゃ、こんな誤魔化しが効くとは思ってないけどさ…。 「…そうか、迷子なら仕方ない。早く校舎の構造を憶えろよ」 「はぁ…」 何だ、意外と天然(?)なんだ。 俺が方向音痴って思われちゃったけど…ま、いいか。 「部長はこれから仕事ッスか?」 「いや、もう終わった。教室に戻るところだ」 「そっすか」 ま、これから仕事だったら…間違いなく本鈴に間に合わないけど。 部長らしく、そこら辺はしっかり時間に合わせて行動してるみたいだ。 「………越前、何かあったか?」 「…?」 「浮かない表情をしているぞ」 ………嘘 あんな誤魔化しが効くような部長が、俺の表情の変化に気付いたって? …世の中って面白い… 「…そうッスか?そんな事ないと思っ…!」 「ちょっとついて来い」 思うッス…と続けられるはずだった言葉は、部長がいきなり腕を引いた事で飲み込んでしまった。 …何?生徒会室…?? 「さぁ、入れ」 「?うぃーす」 よく分かんないけど、生徒会室に入れられちゃった。 …初めて中に入ったけど、スッゴク綺麗。 なんか部長が此処で仕事してるっていうのが想像出来ちゃう感じ。 「何か飲むか?」 「じゃ、ファンタ」 「……紅茶でいいな?」 「…うぃっす」 生徒会って優遇されてるな…。 室内にガスコンロとか冷蔵庫があって、自由に飲食出来るようになってる。 部長が紅茶を淹れてる間に、俺はソファーに座った。 「…越前、此処には誰も来ないから、何か悩みがあるなら話してみろ」 「……いきなり核心突くんすね」 「あ…いや、すまない。遠回しな言葉は苦手なんだ…」 そう言って、紅茶を俺に差し出した後、顔を背ける部長。 …なんか、意外なとこばっかり見つけちゃった… 「俺…不二先輩が判らないんす…」 「…………」 出された紅茶に口を付けながら、ボソボソと話した。 …なんか、恥かしいし。 「知りたい訳じゃないけど…自分でも気付かない内に、不二先輩の事を考えちゃうんス…」 「…………」 部長は、何も言わないでただ聞いてた。 それが逆に、少し嬉しい。 「先輩の言う事もやる事も納得出来ないけど…、何か惹かれるんです」 「それがアイツの手口だとしたら?」 「………え?」 それまで何も言わなかった部長が、冷たく言い放った。 そういえば部長と不二先輩の間って、何かあったんだった…。 会話の中で不二先輩は「壊した」って言ってたけど… 何の事だったんだろう。 …まぁ、こんな状況で質問するような間抜けな事はしないが。 「アイツは相手の気を惹き、自分は動かず相手を踊らせる。そして…」 『相手が思い通りの道具になったら、壊して捨ててしまう』 何だ…?この冷たくて、痛い眼差しは… いつもの部長からは受けた事のない、修羅のような雰囲気だった。 「それって…部長の事なんすか?」 「…!知って、いたのか…?」 「…何があったのかは知らないけど」 「そうか…」 俺が詳しい事を知らないって言ったら、部長は安心したように溜息を吐いた。 変なの…。何でそこまで隠したがるんだ…? 「要するに、部長は自分と俺を重ねて見てるって事ッスね」 「っそれは違う!お前には…俺のような想いをして欲しくないんだ…」 「…何で?」 「俺は…お前が苦しむ姿を見たくない」 そう言って身を乗り出してきた部長。 …何をされるか判ってた。 でも、身体が動かなかった。 もしかしたら…少し望んでいたのかもしれない。 …部長からの"キス″を… 「んん…っ」 「…?!す、すまない!俺は…何て事を…」 部長は身体を引き離すと、まるで夢でも見ていたかのようにハッとして、そして謝ってきた。 …別に、気にしてないけど。 目の前で頭を下げる部長に、思わず微笑んでしまった。 「そんな謝らないで…」 「しかしっ」 「俺、嫌じゃなかったから」 そして自分から、軽いキスをした。 何故だろう…。不二先輩が相手の時は、あんなに嫌悪感があったのに。 俺…可笑しいのかな…… 「…越前っ」 「何すか?」 「いや…何でもない。…悪かった」 言い残して、部長は生徒会室から出て行った。 …俺、ホントに変かも。 だってさっき…部長が「好きだ」って言ってくれたら嬉しいな… なんて期待してたんだから。 不二先輩どころじゃない…俺自身が分からない。 どこか焦り始めた自分の心に 俺はただ…戸惑いだけを覚えた。 |